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ポッピンQ「ダンスに学ぶ協調性と社会」

邦画がとっても豊作だった2016年ですが、映画が人気で人がいっぱいだということはクソ視聴環境を引き当てる確率が高いということでもあります。いちゃつくカップルに四面楚歌される『君の名は。』や、終盤ゼロ年代おじさんのすすり泣きが止まなかった『planetarian 星の人』はとくにひどい上映でした。

 

そういった最悪の映画鑑賞体験を乗り越えてきたわけですから、クリスマスに単独で映画館に凸する程度、今更なんぼのもんでもありません。なので昨日は『ポッピンQ』を観てきました。

ちなみに客の入りは多すぎることも少なすぎるということもなくかなり快適でした。家族連れが目立ったくらいですかね。

 

 

さて『ポッピンQ』は部活やら習い事やらで悩みを抱えた5人の女の子たちの話です。全体で見れば、なんだかちぐはぐな印象のするアニメだったかもしれません。本編前の予告ではドラえもんプリキュアが流れてたし、『ポッピンQ』はオタク層じゃなくてキッズと家族を狙ってるみたいなんですよね。細かい、わかりにくい説明をせずにぽんぽんとシーンを処理してたりキッズに配慮したようなところもあったんですが、題材が高校生以上でないとわかりにくい部活からの引退であったり、登場人物がメインで5人もいたり(上映時間は90分しかありません)、なんか唐突にむずかしい漢字をふりがな無しで表示したりとか、それキッズには不親切じゃないの?と思わんでもない箇所もありました。といっても大きなお友達の僕らにはどうでもよいことですし、結果として気にはなりませんでした。

 

主役のいすみちゃんは陸上の100mをやってる子ですが、まず、このいすみちゃんの走り方がちゃんと陸上の走り方になっているところがとても良いです。陸上選手の走り方って全くダイナミックな動きではないんですよね。まあそんなことは昔陸上をやってた僕のような人間でなくとも、テレビでちょちょっと陸上選手の走りを見ればわかることですが。

アニメでは上体を前後に揺する走り方が多いように思いますが(にわかの主観です)、陸上選手はそうではありません。腰を高い位置に固定し、上体をほぼ垂直に安定させ、後はいかに脚の回転のピッチを上げつつストライドを広げていくかというジレンマと戦うのみです。身体全体をアクロバティックに動かす走り方では決してありません。もっとも、人類身体の限界を突き詰めた最適解としての、洗練された美がそこに存在するのは確かです。

いすみちゃんの走りは、そういう意味で文句なしに陸上選手の美しい走り方です。クラウチングスタートから前傾姿勢を維持して加速、徐々に身体を起こしてトップスピードに到達し、ゴールまで駆け抜ける…という流れが、決して単調でつまらない動きになることなく、とてもかっこよく描かれています。

ただ、中学女子がトラックで12秒0台で走ってるのに納得行かなげな反応だったのはちょっとビビリましたが… タータンでそのタイムでも全国トップレベルじゃないですか?たぶん…

まあ男子なのに13秒すら切れなかった僕が口を出すとこじゃないですね。

 

 

それからCG。ほぼ前情報無しで臨んだのでCG作画のダンスシーンがあることすら知らなかったんですが、これに関してはもう抜群に良かったです。黒星紅白のフラットな絵柄が完全にCGでグリグリと動いています。この部分には、誰もが満場一致で100点をつけることでしょう。ただカメラワークとかその辺はあまりわからなかったです、顔ばっか見てたので…

ともかく、僕のとぼしいCGアニメ視聴経験の中ではおそらく一番生き生きした動きをしていた映像だったと思います。

 

 

 

ここからはネタバレ有りで内容の話するんで未見の人は気をつけてください。

 

 

内容を一言で言うなら…強力な情操教育アニメって感じでした。とてもヤバいものでした。最高です。

 

主人公5人のうち、4人は先に集まり、さきちゃんという内気な女の子は後から登場します。めんどくさいのでちょ~~雑な説明をしますが、あるとき5人は突然「時の谷」なる異世界に飛ばされ、その世界の住人である「ポッピン族」というマスコット的存在に「息の合った”勇気のダンス”で世界を救ってくれ!」と言われます。

しかしさきちゃんは内気な女の子なので、私踊らないもん的なことを言います。まあ、実は彼女にはトラウマがあって別にワガママでこんなこと言ってるとかいうわけではないんですが(というか彼女がポッピン族に従う義理とかそもそも無いわけですが)。

そして、さきちゃんのペアであるポッピン族のルピイは彼女を擁護します。「さきはちょっと人と話すのが得意じゃないだけなんだ!」とかなんとか。それに対していすみのペアのポッピン族ポコンは即座にこんな返しをします。

「あてが外れたな、協調性のない人間に勇気のダンスは踊れない」

 

見限るの早くない!?このあと、さきちゃんは4人から離れてどっか行ってしまいます。協調性のない人間を協調性が無いという理由で集団から排除する!すごくないですかねこれ。とても教育に満ちあふれていると思いますよ…。こういう視点で見るとヤバいシーンやセリフが矢継ぎ早に飛び出してきます。

ポコンは「世界を支配する法則を一人で変えるなんてできない」みたいなことを言います。やべーよ、集団は世界の法則だったのかよ。そりゃ一人で変えられるわけねーな!レッツ協調!全体主義を讃えよ!

他にも終盤でポコンがいすみにヘッドバット喰らわす際、ポコンはポッピンたちと組体操みたいなことをしてます。組体操!まさしく協調といった感じですね。上の者が立つために下の者は苦しい姿勢で耐えるんです。それが名誉なのです。

 

そもそも、協調性というテーマと、全員で調和の取れた動きが要求されるダンスとの相性は抜群です。5人はダンスを通じて協調性を獲得するのですね。みんなとずれた動きをやめ、ひたすら同じ動きをするようになる、これが世界を救う唯一の方法なのです。共通のコードの中での個性を認めることはあっても多様性は必要ないのです。

 

というか、5人がそれぞれ抱え、やがて解決にすることになる問題自体が、周囲と協調し社会の一員となるための通過儀礼ですらあります。

いすみは悔しさからくる行き過ぎた言動で部活仲間からイビられますが、一連の冒険を経たあとで和解し、両親にはうちの子でよかった!と言い放ちます。小夏は序盤でピアノのコンクールから逃げ出しますが最後には卒業式でピアノを演奏する大役を担います。つっけんどんな対応で人の寄り付かなかったあおいは、態度を軟化させみんながわらわらと寄ってきますし、さきはいじめられてダンスが嫌いになった過去を乗り越え、5人に心を開いて一緒にダンスを踊ります。さきの序盤のカットなんか最高でした。公園の遊具の中に入り、遊具の内側に怨嗟を書き連ねているんです。「消えたい消えたい消えたい」だったかな…?自分の内側に閉じこもり、外部=社会に向かって恨みつらみを言ってるわけです。この落書きも最後にはさき自身の手で消されるんですがそれもまたたまらなく良いですね…

 

あさひに関しては、柔道派の父親合気道派の母親の間で板挟みになるんですが、結局どういう選択をしたのかよくわかりません。袴着てたから合気道もやめないってことでいいんでしょうか。この辺は僕の知識の欠如による理解不足の可能性が大きいですけど…

あさひの結末がはっきりしないのは、あさひの問題が5人の中でもっともパーソナルな面の強いものだったからではないですかね。父親母親どっちの言うことを聞くにしても、疎外されることになるのは多くてどちらか片方からですし。どっちの言うことも聞いてやんねー!的アンサーを選ぶような子ではないですし、彼女は元より集団サイドの人間だったのです。

 

しかし見ようによってはこのあさひがもっともヤバいとも言えます。あさひは、周りに流されているようじゃダメみたいなことを言いますが、結局選び取られるのは集団への恭順なわけですよ。つまり、雰囲気でなんとなく集団に入るのでは、たとえ表面上は集団と協調していても不十分だということです。自分と向き合った上で、自分の意志で能動的に、他者との協調を選択することが必要なのです。協調性を手にした彼女たちに待っているのが卒業式であるというのももう最高ですね。お前が社会の一員になるんだよ。ブレ○ディのCMかな?

 

でも、素晴らしいことにこれでもまだ『ポッピンQ』は終わりません。『ポッピンQ』では集団から疎外された人間の末路も示唆されています。ポコンは、ひたすら息を合わせて踊っているポッピンたちについて「躍ることで時間を進めている、これがポッピン族に課された使命なんだ」みたいなことを言います。踊るものが時間を進めるのなら、踊らない者、集団に属さず義務を果たさない者にやってくるのは時間の停滞です。さらに、アンチ集団サイドであるラスボスは、いすみをその場で老化させる魔法みたいなのを使います。ここまで来ると、もう可能性は一つしか考えられません。すなわち、集団への協調を拒否すれば、周囲の時間の流れから取り残され、ひとり孤独に老いていく道が待っているのです。怖すぎだろ!!

年金やらなんやらで、若い世代から老年世代への潜在的ヘイトが高まりつつある高齢化社会日本において、「老い」を自明な恐怖の象徴としてここまでストレートに描くことには感じ入るものがあります(いすみグランパの存在など、徹頭徹尾老いが悪であると描いてるわけではないみたいですが)。誰しもいつかは老人になるはずなんですけれど…そんな風でいいんでしょうかね。僕は、老いが幸せなものであってほしいな~と思いますが。

 

 

 

まあそんな感じで、すっげぇ映像だ…と終始ニヤニヤしながら観ていました。続編もあるらしいし観るっきゃないです。

 

 

なんか3DCGつきのリズムゲームも出るそうです。これやっぱりキッズじゃなくて中高生向けなの?まあ映画のCGは最高だったんで普通に楽しみです。

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